目黒雅叙園 > シリーズコラム「見えないものに価値がある」 > 親切とおせっかい

シリーズコラム「見えないものに価値がある」

親切とおせっかい

2015-01-07

「親切」と「おせっかい」。その違いはいったいどこにあるのだろう。

電車でお年寄りに声をかける。「どうぞこらちへ座ってください」と。

「私はまだそんな歳じゃない!」と言って不愉快そうな顔をされるかもしれない。

そうなると「おせっかい」。

でも、「ありがとうございます。助かります」と頭を下げられたら「親切」だ。


さて、目黒雅叙園のベル・Kさんから聞いた話。

ベルとは、正面玄関でお客様をお迎えするスタッフのこと。

フロントまでご案内し、荷物を客室まで運んだりもする。


ご家族に付き添われて、かなり年配のお客様がタクシーで到着された。

ドアを開けると、「よっこいしょ」と足を出し、杖をつきながら歩き始めたという。

そこでKさん、「車椅子をご用意いたしましょうか?」と尋ねた。

ところが、首を振り「いいよ、歩くから」とおっしゃった。

「こちらからフロントまで少々距離がございますので……」と説明しかけたが、

思うよりもしっかりした足取りで園内へと進んで行く。


「大丈夫かな……」というKさんの心配は、しばらくして当たってしまった。

入口を入って左に曲がったところで、そのお客様の息が上がってしまったのだ。

入口からフロントまで200メートル近くある。その長い長~い回廊を目の当たりにしてのことだった。

困ったのは、付き添いのご家族だった。

そこへ……一台の車椅子が到着した。

「もし、よろしければ使いになりませんか?」

今度は、笑顔で応じてくださったという。


Kさんが、お客様に聴こえないように、胸元に着けたトランシーバーのインカムで、

事務所のベル仲間に連絡しておいたのだった。

「念のため、車椅子を一台お願いします」と。


お客様は、すっかり気に入ってくださり、ホテルの部屋でもレストランでもずっと車椅子をご利用されたという。

「親切なおせっかい」。見えないものに価値がある。