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シリーズコラム「見えないものに価値がある」

いつもと違う顔

2012-06-01

目黒雅叙園は敷居が高いと思われている・・・らしい。

都内に住む何人かの友人たちが言う。

それは、おそらく、都指定有形文化財「百段階段」や、螺鈿細工のエレベーター、

江戸美人の彩色木彫板の回廊など、豪華絢爛な建築物のイメージがそう思わせているに違いない。

 

そもそも、目黒雅叙園はだい大浴場の施設を備えた料亭だった。

もちろん食事もできる。

庶民が一日だけ「お大尽」のような気分を味わえるテーマパークのような存在だった。

 

ある日、中国料理「旬遊紀」のスタッフ・Nさんは、ある女性の喜寿のお祝いの予約を承った。

予約をしたのは、ご主人と、一つか二つ年下の幼なじみの女性だ。

「ぜひ目黒雅叙園でお祝いしてあげたい」とのことだった。

三人とも、目黒生まれの目黒育ち。

たしかに、七五三、入学、就職、結婚記念日など、人生の節目の特別な日には、

家族で揃って目黒雅叙園で食事を楽しんできたのだという。

 

さて、そのNさんが通勤途中に、JR目黒駅から行人坂を下っていた時のことだ。

見覚えのある顔の男性とすれ違った。

「あっ!この前の喜寿の祝席のお客様だ」と気づいた。

しかし、先方は仕事中で大きな荷物を抱えながら、打合せをしている。

こちらには気がつかない様子。

もっとも、園内にいるときは制服姿なので別人に見えてしまうのかもしれない。

ここでNさんは「ハッ」とした。

そのお客様の顔つきが、レストランにお越しいただくときとは全く違うのだ。

一言でいえば緊張感でピリピリしている。

食事を召し上がるときには、あんなに寛いで和やかでいらっしゃるのに。

その瞬間、Nさんは自分の仕事の重さを改めて理解したという。

「忙しい毎日の中で、非日常的な空間を楽しみにして来られるんだ。

きっと、園内では心が開放されるのに違いない」と。

ちょっと大袈裟だけど、ここは異次元の別世界。

だからこそ、日常を忘れて特別なひとときを過ごしていただけるのだ。

さらに「お客様のすぐ隣りにある、身近な存在でありたいのです」とも。

 

「ほっとする空間」。

見えないものに価値がある。