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シリーズコラム「見えないものに価値がある」

何もしないというサービス

2012-03-01

常宿の目黒雅叙園に泊まった。

チェックインをして、荷物の整理をしたらすぐに仕事に出掛けなければならない。

 

部屋までカバンを運んでくれたスタッフは非常口の場所だけ説明すると、

「何かございましたら、お声をおかけください」と言い、そのまま部屋を出て行った。

 普通は、続けて室内の設備を説明する。それをはぶいてくれたのだ。

私の慌しい雰囲気を察してくれて。

さりげない気遣い。

たったそれだけのことが嬉しくて心に残った。

 

翌朝、そのスタッフにその思いを伝え、

「本当はマニュアルでは、お風呂のジャグジーや空調の説明をすることに

なっているんですよね」と言うと、こんな話を聞かせてくれた。

 

目黒雅叙園では結婚式で泊まられる新郎新婦さんが多い。

朝早くから支度をして、挙式、披露宴、その後の二次会へと続く。

二人ともくたくたになる。特に新郎の方がひどく疲れていることが多いという。

宴席でさんざんに飲まされる。

みんなが祝ってくれているので、なかなか断ることもできない。

その上、新婦や親戚、参列者全員にあれこれと気を遣う。

部屋に戻ると、その疲れが一度に出る。

 

そんなとき、スタッフとしては何をして差し上げられるのかを考えるのだという。

部屋まで荷物を運ぶお手伝いをする。

「お部屋の設備のご案内をさせていただきますか。それとも

すぐにお休みになられますか?」と尋ねる。その上で、おふたりの表情をみて、

「何かお尋ねのことがございましたら、お声をおかけください」と言って

早々に辞するのだという。

 

私事で恐縮だが、はるか昔の自分の結婚式を思い出した。

前日まで連日のように職場や友人たちのお祝い会が続き、

二日酔いのまま結婚式の朝を迎えた。

もちろん披露宴でも浴びるほど飲まされたことを。

 

サービスとは、何かをすることとは限らない。

ここに「何もしないというサービス」がある。

 

「気遣い」。

見えないものに価値がある。