目黒雅叙園 > シリーズコラム「見えないものに価値がある」 > 「円卓の愉しみ」

シリーズコラム「見えないものに価値がある」

「円卓の愉しみ」

2010-07-30

ご存じだろうか。
目黒雅叙園には、日本で初めて、いや世界で初めてという記念すべき設備がある。
中華料理の円卓だ。
今では全国どこででも見られるこの回転テーブルは、目黒雅叙園の「旬遊紀」で生まれた。
それが人気を呼び、とうとう本場の中国でも用いられるようになったのである。

 

さて、「旬遊紀」のスタッフSさんから聞いた話。
誕生日や還暦など、お祝い事で利用されるお客様には、お祝い用のメニューがある。
大皿に北京ダックや鯛の塩釜焼きが運ばれる。
それをSさんが皆さんに料理名を告げ、一旦披露してから各々の皿に取り分けて差し上げる。
この「取り分ける」という作業は、スタッフの重要な仕事の一つである。
しかし、北京ダックは別にしても、取り分けやすい料理については、
お客様に「いかがされますか」と尋ねることにしている。
すると、ほとんどのお客様が「自分たちでやります」とおっしゃるのだという。
それが、中華の愉しみの一つだからだ。

 

円卓を回して、好きな料理を好きな量だけ自分で取る。それだけではない。
「そっちのお醤油を回してくれる」とか「ねえ、紹興酒はいかが」と言い、
円卓の上に乗せてクルクルッと回す。手渡しするのではなく、あえて円卓を回す。
みんなの目の前を紹興酒が通り過ぎていく。

entaku.jpg

「大丈夫? おじさん、飲みすぎないでね」とか「僕も飲もうかなぁ」なんて会話が広がる。
料理を囲むうちに温もりが生まれるのだ。
その温もりは円卓の「丸」という形にも由縁があるのではないだろうか。
昔、一般家庭の食卓には円卓があった。
いわゆる卓袱台(ちゃぶだい)である。
家族全員が顔を見合わせて食事をする。
そんな懐かしい情景を無意識に思い浮かべる。

 

「郷愁」。見えないものに価値がある。

「雅」Vol.35 掲載