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シリーズコラム「見えないものに価値がある」

「花嫁が来ない!」

2010-04-16

ある年の暮れも押し迫る、12月28日のこと。 共にバレエ劇団で活躍するカップルが、目黒雅叙園で挙式をする予定だった。 ところが、新婦と、そのご両親が、時刻になっても到着しない。 そこへ電話が入った。道路の渋滞につかまり、ずっと動かないという。 3週間前に、新婦さんが足をケガをした。 車椅子が必要になったため、 お父さんが自家用車を運転して式場へ向かった。 会場では、皆さんが心配して待っている。 新婦のお母さんは、いてもたってもいられず車から降りて、 娘さんを乗せた車椅子を押して、歩道を走り始めた。 最寄りの駅を目指し、寒風の中を駆ける、駆ける!!  道行く人たちは、「いったい何事だろう」と振り向いた。 さもありなん。お母さんは、華やかな衣裳を身にまとい、 大きなバッグを抱えて必死な形相。 それだけではない。 車椅子には、たくさんのリボンがデコレーションされていた。 改札口で「何事ですか」と駅員さんに声をかけられた。 事情を話すと、込み合う構内をホームまで「すみません、通してください」 とエスコートしてくれた。通り掛かりの人たちも、 階段を一緒になって車椅子を運んでくれた。 hanayome.jpg ようやく到着。 待機していた目黒雅叙園のスタッフが、 大急ぎで新婦の衣裳や化粧の支度をして、挙式・披露宴が始まった。 さて、それまでの出来事をよそに、つつがなく進行し、新郎・新婦が退場の場面。 ドアの前で、新郎は車椅子の新婦を、ヒョイと抱きかかえた。 それはまるで、バレエの舞台のようだった。 ヤンヤの喝采。 そんなドラマの影には、新婦の母親の愛があった。 もちろん、そのことを会場の誰も知らなかった。 「愛」。見えないものに価値がある。
「雅」Vol.33 掲載